30代も半ばを過ぎたある日、気がついた。
同年代の友人たちが、恐ろしいことに「恋バナ」をしなくなったのだ。
10代・20代とあれほど盛り上がった恋バナを、だ。
理由は簡単で、みんな結婚したり生涯のパートナーを見つけているからである。

こんな仕打ちがあるだろうか。
俺は今まで週末の夜がやってくるたび、みんなの恋愛・色恋におけるすったもんだに根気強く耳を傾けてきたというのに。だというのに!
自分たちが伴侶を見つけた途端、分別臭い顔で「お前もそろそろ落ち着けよ」などと言うのだ。
こんな仕打ちがあるだろうか。
海よりも深い悲しみを抱えて、同じく独身の友人と酒を飲みにきたのは逗子にあるラザニア専門店『Yokohama Lasagna SORA』
もちろん恋バナをするためだ。

店内はL字のカウンター席。
L字カウンターのLは「LOVE」のL。
恋バナをするにはもってこい。

壁には逗子っぽいイケてるアート作品が飾られている。

ラザニアと聞くとどうしても海外ドラマを連想してしまう。特にラブコメだ。
巨大なバットいっぱいに作られたラザニアを女の子たちががっつきながら、楽しそうに男の子の話をする、そんなイメージ。

ラザニアって美味しいけど、日本だとなかなか食べる機会がない気がする。

逗子の爽やかな夕暮れを感じながら、今夜はどうしても恋愛の話がしたい。
そんな時にぴったりの乾杯ドリンクは、生ビールではないだろう。

カンパリソーダ、これで決まりだ。
甘くほろ苦くたちのぼる気泡は、数多の恋の思い出そのもの。

おつまみ前菜5種盛りをつつきながら、乾杯。

甘海老の唐揚げ カレー風味。

ムール貝のガーリックバター蒸し。

貝の旨みたっぷりのスープにパンを浸しながら、「人生最愛の男」という議題で語る。
そもそも最愛の男・最高の恋の定義とはなんだろうか?
交際期間の長さか、刹那の高揚感か、繰り返した逢瀬の回数や相性なのか。
生きるの死ぬのの大騒ぎをした恋だろうと、退屈しのぎのようなお遊びの恋だろうと、過ぎて時間が経てばどれも平たく延ばしたパスタのように、同じ厚みでそこに並んでいるようにしか感じられない。

ラザニアが焼き上がるタイミングで白ワインを。
店主さんはソムリエの資格を持っているとのこと。

プレーンラザニア。
こんがりついた焼き目が美しい。
ラブコメドラマのようなバットいっぱいのラザニアは当然食べきれなくなった、30代半ばの俺には嬉しい量だ。

ソースやチーズが層を成したパスタと一体になって、口の中いっぱいを幸福感が満たす。
自他の境界線がなくなってしまってとろけるようなこの高揚感は、ああ、恋の悦楽にも通じている。

牛ほほ肉のボロネーゼラザニア。
ふた皿目のラザニアにフォークを入れた瞬間、俺は唐突に思ったのだ。
「恋愛はラザニアに似ている」
これは天啓・悟りの境地と言っても差し支えない。

俺たちは過去の恋愛というパスタを重ねて重ねて、ソースとチーズで包んで、こんがり焼き上げて、人生や恋愛観を作り上げていく。
そう。一度や二度の恋愛で運命の相手を見つけられる人間は少ない。何度もバカ男に引っかかったり、騙されたり、泣いたりしながら、審美眼と己自身の魅力を磨くのだ。
そうして完成したラザニアが、運命の王子様か、はたまた1人でも生きていける強い自分自身になるかはわからないが、過去に引っかかったダメ男たちとの経験が人生における何層もの土台となっていることは間違いない。

…そう、これが独身者の恋バナである。
なんでもいいのだ。全てのものを恋愛にこじつけて軽薄に盛り上がる。
でも、楽しかったじゃないか。
どうしてみんな俺を置いて大人になってしまうのだ。
最近恋バナをしなくなった既婚者の友人たちにも、このお店の絶品ラザニアをつつきながら、どうかこんな与太話を聞いてほしい。
かつての俺たち、海外ラブコメドラマの女の子たちのようだったあの頃に、ほんの一夜だけ戻って。
俺は!恋バナが!!したい!!!
なぜならまだ、薄いパスタの層を敷き詰めている段階の子供だからだ。
| 店名 | Yokohama Lasagna SORA |
| 住所 | 神奈川県逗子市逗子6-5-42 |
| アクセス | 逗子駅、逗子・葉山駅から徒歩 |
| 営業時間 | 11:00〜14:00 17:00〜20:00 月曜日はランチのみ |
| 定休日 | 木曜日 |
| SNS・サイト | 公式サイト 食べログ |
※データは全て取材時のものです









