人生の半分を”江戸”という文化レベルの高いらしいエリアで過ごしてきたが、俺個人はおよそ伝統芸能や高尚なゲージュツなどとは無縁な生き方である。
せいぜいが飲み屋帰りに千鳥足で玉川上水を眺めて「これが太宰の身投げした川か…思ったより浅いな…」などと感想を抱く程度。色恋のことなら、人より少しばかりよく知っているかもしれないが。
仮にも文筆業を生業にしている人間が、いい年してそのような文化レベルの低さでいいのだろうか?いや、よくないだろ。そう密かに案じてくれていた人が、俺にはどうもいたらしい。

やってきたのは銀座・歌舞伎座である。新宿・歌舞伎町ではない。
俺の文化レベルの低さを案じた年上の友人が、なんとペアチケットで歌舞伎にご招待してくれたのだ。それも一等席。ここはひとつおめかしして、編集担当と乗り込むしかない。なぜなら、歌舞伎座の中では、酒が飲めると聞いたことがあるのだ。
連れて行く相手が編集担当というのがいまいち色気に欠ける気もするが、この際仕方がない。

歌舞伎座は、地下鉄東銀座駅3番出口から直結。慣れない革靴で足が痛かったので、あまり歩かずに済むのは助かった。

地下の物販・飲食エリアの『木挽町広場(こびきちょうひろば)』。お弁当売り場をまずは発見。
歌舞伎座では幕間(演目の合間や前後)であれば、なんと客席でも飲食が可能なんだとか。だから「幕の内弁当」なのか。は〜勉強になります。
弁当以外にもおにぎりや押し寿司も売っていた。

結構広いね。

撮影禁止だったので撮らなかったが、歌舞伎役者のプロマイド売り場も発見。番号が振られた写真を、歌舞伎ギャルたちがきゃっきゃっと楽しそうに選んでいた。

おお、みんな大好き、歌舞伎座の歌舞伎揚。ビールに合うんだよな、これ。
歌舞伎揚は「天乃屋」にて、1960年誕生。歌舞伎の引き幕をイメージした配色デザイン(萌葱、柿、黒)だそう(ネット調べ)
甘いようなしょっぱいような。なんともいえない独特の美味しさをしているよね。

1番混んでたのはタリーズだったが…。

地上階、歌舞伎座入り口横にもお土産屋さん。上演中の演目にちなんだスイーツや、アルコールも売ってたよ。

12月の演目には、アニメ映画にもなった『あらしのよるに』の歌舞伎版が。
映画の声優を務めた中村獅童さんはこちらにも出演。

我々が観るのは第二部の『加賀鳶』『鷺娘』
テレビで見たことある人が、たくさんだ。そうか、みんなこっちが本職なのか。そりゃそうか。

歌舞伎座に入場して、座席よりもまずはビールを確保するのがいかにも我々らしい。
レストランは予約制だったので、場内ドリンクコーナーで買ったビールと、歌舞伎揚でまずは喉を湿らせる。歌舞伎揚には、ドライな日本のビールがよく合う。
しかし売店やドリンコーナーがあちこちにあるな。歌舞伎座がこれほど飲酒に寛容な場所だとは。

上演中でなければ写真もOKとのこと。俺が思っていたよりずっとオープンな雰囲気だ。着物を着た人たちが厳粛な空気を漂わせているのが歌舞伎だと思っていたが。
席はさすが一等席。役者たちが客席を貫いてドタドタと舞台に向かって出入りする通路「花道」、すぐそば。おお、中村獅童があんなに近くに。
この日は俺が見たかぎり、座席で飲み食いしてる人はいなかった。

幕間の休憩時間。”泡”を発見。当然飲むでしょ。乾杯!
歌舞伎座に限らず劇場というのは、空気が乾燥しているからシュワシュワした酒がうまいね。
歌舞伎座で幕間にスパークリングワインか…俺も大人になったものよ。

耳から出てるのは音声ガイドのイヤホン。ちょっと難しい歌舞伎も、これさえあれば大丈夫!よくできてるなあ。
最初の演目『加賀鳶(かがとび)』は、火消しのお兄さんや按摩さんが大勢出てくる、まあいわゆる痛快な捕物帳というか、なんというか、素人が勝手な解釈で筋書きを話すと怒られそうなので割愛するが、ところどころ笑えるようなシーンも多くて、俺でも楽しめる内容だった。消防士さんはいつの時代もセクシーだなあ…という、いかにも俺らしい教養なき感想に留めておく。

服装はきちんとしないといけないのかなと思って、一応セットアップを着てきたが、普段着の方も多かったのでお気軽に。でも調べてみると「音がする素材の服」「高さのある髪型(お団子とか)」はマナー違反と書いてある記事が多かったので、避けた方がベターかもしれない。着物を着ている、富裕層っぽい女性は結構いた。
まあラフな格好OKとはいえ、普段はズタボロのデニムとワインのシミがついたシャツとかで出歩いちゃうタイプなので、こういう機会にスーツでキメて、歌舞伎鑑賞と洒落込むのも悪くない。

土産用に、お弁当をひとつ買ってみた。『歌舞伎座 特選弁当 白浪五膳』

幕の内弁当同様、いろんなものをちょっとずつ食べられるので酒のアテには最適だ。歌舞伎座で買った弁当をつつきながら、その日観てきた演目について、酒を片手に語り合う。なんて文化的な晩酌だろうか。
もうひとつの演目『鷺娘(さぎむすめ)』は、中村七之助扮する鷺の精が、幻想的な世界観の中、人間の娘の姿で恋の苦しみを表現しながら踊るというもの。
すごいものを観た。

文化レベルの低い俺という男には、高尚な伝統芸能やゲージュツのことはよくわからない。人よりもゲージュツのことはわからんが、だが身を焼かれるような恋のことなら、人よりもよく知っているはずだ。
弁当をつつきながら、この日は飲んでも飲んでも、頭の芯が冴えて酔える気がしなかった。七之助扮する鷺娘の懊悩が、俺の中にある何かと、呼応し続けていたから。地獄はいつだって色鮮やかで、天国というのは素っ気ない色をしているものだというのが、俺なりの哲学である。
だから歌舞伎座の目の前にある岩手県のアンテナショップ『いわて銀河プラザ』で買ってきた岩手の日本酒を、端から開けてしまったのも、仕方のないことなのだ。
施設情報
| 施設名 | 歌舞伎座 |
| 住所 | 東京都中央区銀座4-12-15 |
| アクセス | 東銀座駅 3番出口直結 銀座駅 A7番出口徒歩5分 東京駅からタクシー10分 |
| SNS・サイト | 公式HP X(木挽町広場) Instagram(木挽町広場) |
※データは全て取材時のものです。











