もしも過去に戻れたら。誰しも酒のグラス片手に、そんなことを考える夜があるだろう。
どうしても変えたい過去の決断や行動。そしてそれに伴う、今よりよかったであろう別の未来に想いを馳せるのは、人間の本能だ。

『魔王』という芋焼酎を飲むと、幼少期に楽しんだスーパーファミコン用ゲームソフト『クロノ・トリガー』を思い出す。
主人公の少年が機械だらけの未来から恐竜暴れる原始まで、さまざまな時代をタイムマシーンで旅しながら、それぞれの時代で出会った仲間たちと共に崩壊する世界の未来を変えるための冒険を繰り広げる、という内容だ。多彩な仲間の1人に、中世時代の「魔王」というキャラクターがいるので、この酒を飲むとそんなタイムトラベル・ジュブナイルを思い出すのだった。このゲームをプレイしていた頃、もう決して帰らない幼少期への、安い感傷と共に。

クロノトリガーには様々な過去や未来を変えたいと願うキャラクターが登場するが、みんなには変えたい過去、というものがあるだろうか。
俺は36歳で、まあまあハンサムで、それなりに面白い人生を現在歩んでいるが、20代という青春時代は長い長い極彩色の悪夢のようだったように思い返さずにはいられない。家庭のある人のことをずっと好きで、その男は俺が同性愛に目覚めるきっかけにもなった相手だった。彼と出会わなければ俺はもしかしたら、今頃女の子と結婚して平々凡々とした家庭を築いてサラリーマンとかしてたかもしれないし、貴重な20代を紫式部やE・ブロンテも真っ青な、ドロドロの愛憎劇を演じることに費やさないで済んだはずだ。

もしここに、タイムマシーンがあったなら。
彼と出会わないだけでいい。あの日、あのクラブの片隅で、彼にライターの火を貸さないだけでいい。後ろから、ポンっと20歳の自分の背中を押して、喫煙所からダンスフロアの人混みに紛れさせればいい。それだけのことで、あの男との人生が交差することはなかったはずだ。それだけで俺は今頃ストレートだったかもしれないし、周りの大学生みたいにスノボとバーベキューとアルバイトに打ち込む馬鹿っぽいが健全な青春を送れたかもしれないし、こうして昔の男の悪口をネットに書き散らすような低俗な仕事にも就いていなかったはずだ。
それでも。俺はやはりそうしない気がする。出会ったばかりの彼を見つめる俺の目が、今の俺よりずっと綺麗だろうことがわかっているから。つまりそれがまごうことなき俺の青春だったのだ、多少歪だったとはいえ。青春や思い出はいつだって帰らないから美しいことを36の俺は知っている。知ってしまった。

過去を追憶するのは「青臭い」行いだ。そして思い出の大半は実際よりも美しく脚色されている。今の俺のように。だがそれは人間が生きていくために必要な本能でもある。そのことを理解した時、人は大人になるのかもしれない。
この魔王という酒の上質な味わいには、そんな大人っぽいある種の諦観やクールさを感じさせつつ、しかしほんのり遠くから香るバナナの皮のような青臭さがまるで、決して変えられない過去の蓄積で形成されている人間の現在と、それでも時折こうして振り返らずにいられない人間の性そのもののようだ。俺はとても好きだ。そういう人間のダメなところも、この酒の複雑でちょっとシニカルな味わいも。
ていうか、ゲイになった自分のことは結構気に入ってるしね。あいつがいなければ、今の友人たちや仕事にも出会えなかったのだから、変えるべき過去など俺には何もないのだった。タイムマシーンなど、絶版になったエロBL漫画を過去に買いに行く時だけあればいい。
商品情報
| 商品名 | 魔王 |
| アルコール度数 | 25% |
| 製造者 | 白玉醸造株式会社 |
※データは全て取材時のものです。











