都会のアラサー男子の多分に漏れず、スポーツジムというところに入会している。
入会しているが、最近はまったく通っていない。たまに風呂に入りに行くことはある。
つまり俺は毎月毎月、会費の約1万円をたかだか数回の入浴のため、湯水(風呂だけに)のごとく溶かしていることになる。
恐ろしい話であるが、不摂生(酒)や運動不足に危機感は感じており「来月はちゃんと通って鍛えるもん」と毎月思っている。
そんな軟弱な俺に、ビシッと気合を入れてくれた1冊があるので、今回はそちらをご紹介。
高口楊『ドランクバレット』

高口楊(たかくち やなぎ)『ドランクバレット』は禁酒法時代のアメリカをモチーフにしたバトル(?)漫画である。
主人公のギャレット・ホッパーは、第一次大戦を戦い抜いた帰還兵。
停戦後、酒飲みである彼は久方ぶりの飲酒を楽しみにアメリカへと戻るが、なんと知らない間に「禁酒法」が施行されており、庶民はまともな酒を飲むことができなくなっていた。
絶望するギャレットだったが、とあるバーを経営する姉弟を、その店に貯蔵されていたバーボンを狙うギャングから守ったことをきっかけに、なんと警察から指名手配を受けてしまう。
こうして彼は仲間たちと共にアメリカ全土を逃走し、行く先々でギャングたちの、酒や金、権力を巡る戦いに巻き込まれながら「アメリカ中の酒を飲み歩く」ことになる。異色の飲酒バトルロードムービー漫画だ。
惰性で飲む酒は本当に美味いのか

もちろん作品はフィクションだが、実在の土地や人物、そして酒が多数登場する。
飲んだことのある酒も多く、その成り立ちや、味わいをこれほど情感豊かに、俺のような愚かな酔っ払いにもわかりやすく表現できるのは、絵と文字で魅せられる、漫画という手法ならではだろう。勉強にもなると思う。
例えば作中に登場する「ジムビーム(オールドタブ)」や「バドワイザー」は俺も好きで家に置いている身近な酒だが、この作品を読んだ後は、なんだか味わいがふくよかになった気がする。歴史の重みというスパイスか。
そしてギャレットにはひとつの信条がある。1日1杯(1本)しか飲まないのである。
酒というのは最初の1杯が至高であり、惰性で飲むべきではないというポリシーの彼が口にするそのたった1杯の酒は、一体どれほど美味いだろうか。
日本という飲酒に寛容な国に生まれたことは、俺のような酒飲みにとって僥倖としか言いようがないが(海外だと路上で飲んでると捕まったりするらしい、こわ)安く、自由に、いつでも好きなだけ「酔うための酒」が飲める環境で、俺たちはその本来の美味さ・ありがたみ、みたいなものを忘れているのかもしれない。
俺は可愛いのでその昔夜のオシゴトをしていた時期があるのだが、初めて客に入れてもらったシャンパンの味は今も憶えている。美味かった。
まごうことなき「惰性ではない1杯」だ。うーん、ちょっと違うか?
至高の1杯を求めて駆け抜けろ!トレッドミル!!

酒飲みにとって暗い時代でありながら、あくまでもコメディタッチで描かれる、疾走感のある物語。
悪党を蹴散らしたり、仲間を救ったあと口にする、至高の1杯。広大なアメリカを駆け抜けながら飲む、至高の1杯。
そんなギャレットの姿を見ていたら、毎日ゴロゴロと布団の上で、惰性で酒を飲んでいるのがちょっともったいなく思えてしまった。
でも俺には蹴散らすべき敵も、救うべき仲間もいないし、東京は信号だらけで電動キックボードも多くて駆け抜ける大地もない。どうしようかな、と思った時、目に入ったのはスポーツジムの会員証。
数ヶ月ぶりのトレッドミル(ランニングマシーン)に挑戦すると、足はふらつくし、走れる距離は明らかに短くなっていた。翌日はもれなく筋肉痛だろう。
それでも、運動で汗を流し、サウナでさっぱりしたあと、夕暮れの風に吹かれながら飲むジムビームハイボールは、間違いなく至高の1杯だった。
まあ帰ってから飲み直しちゃったけど、この1杯のために、今後スポーツジムを駆け抜けるのも悪くないと思う35の秋。その後見事に足を捻りました。ほどほどに駆け抜けます。
書籍情報
『ドランクバレット』(ジャンプコミックス)
高口楊 著
ジャンププラス(ここから一部無料で読めます)
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※データは全て掲載時のものです











