飲酒と同じくらい好きなのが読書である。
ふたつを同時に楽しめればいいのだけれど、酒を飲むと活字が頭に入ってこないので、基本的にシラフの時にしか読書ができない、というのはなんとももどかしいところだ。
しかし世の中には、「飲みながら読むのに、なんかとても心地いい」という、新幹線で缶ビール片手につまむ駅弁のような不思議な本も、少なからず存在する。
今日は俺がほろ酔いの時に読む、お気に入りの1冊をご紹介。
大宮エリー『なんとか生きてますッ』

大宮エリーという、作家兼画家兼脚本家兼写真家兼CMプランナー兼エッセイスト兼コピーライター兼ラジオパーソナリティ、みたいな、なんだか忙しい人がいる。
彼女の書いたエッセイ集『なんとか生きてますッ』は、車内販売で綺麗なお姉さんから買うキンキンに冷えた(ちょっと割高な)缶ビールにもぴったりな1冊である。
様々なジャンルの仕事をこなしながら、多忙な日々を送る彼女の日常の隙間を切り取った、軽妙でおかしみに溢れたエッセイの数々は、酔った頭で読んでも実に痛快だ。
不意に食らわせてくる一文で、ビールの泡を何度吹き出しそうになったことか。
すごい人なのだ。すごい人なのだが…この大宮エリー、しょっちゅうやらかす。特に、酒関係で、やらかす。
泥酔してMacBookを白米だと勘違いしてカレーのルーをかける、真冬の路上で眠っているところを超大物ミュージシャンに救助される、断食道場に通ってる最中誘惑に負けて「ついビールをひと口舐めて」しまう、エトセトラエトセトラ。
酒以外でも、財布を忘れて新幹線やタクシーに乗ったり、バイオリンを弾いてシマウマたちを怖がらせたり、カバンの中に納豆が入っていたり、マザーアースとファザースカイに感謝を捧げる儀式に参加することになったり、ちょっと何を言ってるかわからないかもしれないが(俺も何を書いているのかわからない)そんな愉快で短いエッセイがいくつも収録されている。
酒を飲むなら幕の内が1番嬉しい

酒の失敗談から、日常のちょっとしたトラブル、スピリチュアルな出来事、そして強烈な存在感を誇る「おかん」の存在まで…それら全てを笑い飛ばす、著者本人の仕事ぶりと同じくらいバラエティ豊かな1冊である。
巻末にはお笑いコンビ・おぎやはぎの小木博明さんとの対談、そして解説は俳優の板尾創路さん。
タレントやミュージシャンからの信頼も厚い著者の日常を切り取っている本書の中には、たくさんの有名人・スーパースターが登場する。
それら全ての要素を含めて、本人が後書きで「幕の内弁当」みたいな本だと語っている。それもほかほか、出来立てのあたたかい幕の内だ。
駅弁というのは最近じゃ豪華なものがいくらでもあるが、酒を飲むとなった時、1番嬉しいのはいろんなおかずを少しずつつまめる、幕の内弁当じゃないだろうか。
焼き魚、揚げ物、おひたし、煮物、漬物、練り物、卵焼き、シウマイや鴨の燻製なんか入ってるやつもいいね。
そんな品数豊富な幕の内弁当をつまむように、1編ごとに違う味わい・笑いを提供してくれるこの本は、だから酒を飲みながら読むのにちょうどいいのだ。
平易な言葉遣いとリズミカルな文体で書かれているのも、ほろ酔いで読むにはちょうどいい。
酔って内容を忘れたら、また読めばいい。書いた本人だってしょっちゅう記憶を無くしてるのだから、そんなノリで読んだって、別にいいだろう。
酔って記憶はなくても思い出は残る

知名度は天と地ほど違うが、一応「物書きで酔っ払い」という共通点がある俺。ご縁あって、著者とは飲みの席で、何度か乾杯したことがある。
ワイングラスにガッシャンガッシャン氷を入れて、そこに注いだ白ワインをグビグビ豪快に、本当にうまそうに飲む、気持ちのいい人だった。つられてしこたま飲んでしまった。
その後みんなで海の見える公園へ移動し、俺たちは2人並んで夜の海を眺めながら缶ビールを飲みなおしたが、お互いだいぶ仕上がっていて何を話していたのかは記憶にない。
記憶はないけど、いい思い出だ。なんだか変な日本語だが、でも、そうなのだ。そう思わせてくれる不思議な魅力が、彼女にはあるように思う。
作品・著者情報
『なんとか生きてますッ』(新潮文庫)
大宮エリー 著
http://ellie-office.com(著者HP)
https://twitter.com/tsubu_ellie(X)
https://www.instagram.com/ellie_omiya/(Instagram)











