
サバが好きだ。すべての魚の中で、1番好きだ。
特に皮ごと焼いた塩サバが好きだ。
朝はほかほかご飯のお供に食べて、夜は酒のアテでまた食べたりできる。それぐらい好きだ。
俺は痛風なのでプリン体の多い青魚は控えなくてはいけないのだけれど、最近は尿酸値も安定しているのでまあいいだろう。

さて、今夜も焼きサバが食べたい。
そういう時、素人は定食屋や居酒屋へ行くのだろうが、俺は玄人なのでインド料理店に行く。
西巣鴨にある『クマールダバ』である。
惜しまれつつ閉店した老舗インド料理店・新宿ボンベイの元シェフだったというクマールさんが始めた、街の小さな食堂だ。

店内に足を踏み入れると、馥郁たるカレーやスパイスの香りが漂っている。
いい意味で高級感や緊張感はなく、あくまでも街の食堂といったゆるい雰囲気で入りやすい。
この香りを嗅ぐと食欲を刺激されるのと同時に、かつて付き合っていた恋人がスパイスカレーを作るのに凝っていたことを思い出す。
何年かかっても満足のいく味には到達せず、作るたびブレるその味に「なんか違うな」といつも不服げな顔をしていた。俺はうまいと思っていたが、思えば2人の関係や食の趣味もカレーの味と同じくらいいつもブレブレだった。
でも住宅街に「夕焼けこやけ」が流れる夕暮れ時、だんだん近づいてくるカレーの香りを嗅ぎながら、2人分のビールが入ったコンビニの袋を下げて、その家に向かう時間はとても好きだった気がする。


…どうもこのスパイスの香りは俺をセンチメンタルにさせるな。
過去の甘い思い出にいつまでも囚われてしまうのは俺の悪い癖である。まだまだ修行が足りない。未熟だ。インドのガンシス川で沐浴とか、ヨガの修行でもすれば何か変わるだろうか?
まあいい、酒だ酒だ。サバだサバだ。



この店ではインドの珍しいお酒が色々飲めるので、インド酒を楽しむのが大正解である。
まずは名物、「GOD FATHER」で乾杯だ。
これはビールだが、なんとアルコール度数が7%あるので、酒に弱い人には推奨しない。インド人、なかなかクレイジーだな。
もちろん一般的な度数のインドビールや、日本の瓶ビールなども置いてあるのでご安心を。

こいつを片手に「アチャール」と呼ばれるインドの漬物や、スパイス風味のナッツをつまめば、ここはもうインドの路地裏にある大衆酒場。ナマステ。窓の外を今、ヨガマスターの片岡◯太郎が通ったような…。

そしてお目当ての「鯖のタンドール焼き」
ナンを焼くタンドールという釜で、串に刺した状態で焼き上げる。
身はジュワッと、皮目パリパリで絶品なのだ。
もちろん味付けはインド風で、2種類のソースにつけて食べる。
ミントを使った緑のソースと、オレンジの方はタマリンド風味。GOD FATHERがクイクイ進む(危険)

サモサチャート。これも大好き。
ハードタイプのタコスに通じる喜びがあるが、食感は軽い。お店曰く「餃子とコロッケの中間のような定番ホットスナック」
何種類ものソースや薬味で複雑な味わい。

がっつく俺がよほど空腹に見えたのだろうか、隣に座っていたご常連がサラダを分けてくれた。
シーフード入りのサラダは、ドレッシングも本格的で酒のアテになる。そろそろワインが欲しいところ。

タカタクカバブ。ラム肉と野菜の炒め物。
タカタクカバブ…回文っぽいね。全然回文じゃないけど。あるいはエキゾチックな魔法の呪文のようだ。
俺は大体、この辺りから赤ワインに切り替える。


インドのワイン。赤白。
インドという国がこんなに飲酒に寛容だとは知らなかったが、インド料理に合う重厚な味わい。ラベルもかわいいね。

砂肝のスパイス炒め。
コリコリした食感に、惜しみないスパイスの味付け。トマトの酸味と針生姜も爽やかだ。
砂肝のカットは小さめで、たくさんなのも、おつまみにいいね。永遠に食える。

ご常連たちには裏メニューもあるっぽい。こちらは大好きなサバと、野菜をスパイスで炒めた何か。
昔の恋人が作ってくれたスパイスカレーに、ほんのちょっとだけ味が似ているような気がしたのは、安い感傷だろうか。俺たちの関係やカレーのように、味や愛情がブレることはもちろんないが。











